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増毛町朱文別の夕焼け

「兄弟」- 朱文別の夕焼けと鰊番屋

Open Panoramaパノラマで小説の舞台を辿る、パノラマ聖地巡礼。第二回目は、なかにし礼の小説「兄弟」の第二章 小樽に登場する増毛町朱文別の夕焼けである。

澧三少年の兄 政之は、両親の家を担保に増毛の鰊網の権利を三日間買い、見事大漁の網を曳く。しかし、その喜びも束の間、さらに儲けようと、その鰊を本州へ運ぶことにするが、チャーター船が時化に遭い鰊を失うことに。そこからは、上り詰めたジェットコースターが幾つもの山を加速をつけて滑り降りるように、家族の運命は転がっていく。

小説の中のこのシーンは最も印象的で、強烈に心に残る部分だった。朱文別の浜は、この小説の原点とでも言うべき場所だと思う。

なかにし礼著 小説「兄弟」第二章 小樽より引用

「澧三よく見ろ!これが鰊雲リの夕焼けだ。
世界でたった一か所、石狩の海でしか見られないものだ」

中略

日本海に太陽が沈みはじめた時、
空は濃い桃色になって激しく燃えた。
未だかつて見たことのない色だった。
見る見る太陽が箸別の岬の端に姿を隠して
四、五分もすると気温が急激に冷えこんできた。
すると空の色もにわかに変わり出した。
自然界にこんな色があったのだろうか。
魔術のように、空も海も淡い桃色になった。
見ていると体が浮き上がった。

中略

「鰊雲リの空は、泣きだす前の女の目だっていっただろう。
その女が泣きだしたのさ。さめざめと泣いてるんだ。
慈母観音のように泣いてるんだ。優しくな。
この夕焼けに抱かれて死んでもいい。天国だ!」

旧白鳥家番屋

旧白鳥家番屋

六月の夏至に近い週末、この夕焼けを見ようと増毛に向かった。札幌から増毛まで車で約2時間半、夕焼けまでには十分時間があるので、途中、オロロンライン(国道231号)沿いに残る鰊番屋を訪ねることにした。

と言うのも、前もってネットで調べたのだが、朱文別の浜には、小説に登場する鰊番屋は既に無くなっている。その雰囲気を、他の番屋を通して少しでも感じることが出来ればと思ったからだ。

↓ 旧白鳥家番屋内部のパノラマ
Open Panorama石狩湾周辺では、明治〜昭和初期にかけて鰊漁で財を成した網元が鰊御殿や鰊番屋を建てた。鰊漁のシーズンには、ヤン衆と呼ばれる労働者が東北地方から集まり、この番屋で生活した。しかし昭和30年(1955年)を境に、その鰊はぱったりと途絶えたのである。そして、その役割を終えた鰊番屋は徐々に姿を消していった。

ここ(写真左上)石狩市浜益区浜益にある旧白鳥家番屋は、明治32年に建てられたもので、現在は石狩市のはまます郷土資料館として保存、一般公開されている。内部には、漁具や加工用の道具類が展示されている。当時は冷凍保存が出来なかったため、獲られた鰊は、身欠鰊などの乾物となる以外は、大釜で煮込み、絞られ、油と魚粕になる。その油は石けんの原料に、魚粕は乾燥され肥料となり本州に運ばれた。

↓ 石狩市浜益区幌番屋のパノラマ
Open Panoramaはまます郷土資料館の石橋さん曰く、当時、鰊の加工作業はもっぱら女性や子供の仕事で、男たちは漁で忙しかった。鰊はいつ来るか分らず、漁師たちは、時化や特別な時以外は酒も飲まなかったそうだ。

ここ浜益地区には、他にも鰊番屋(写真左)が残っていた。残念ながらあまり状態は良く無いが、以前の姿を想像させる存在感のある建物であった。

日もかなり傾いて来たこともあり、オロロンラインをさらに北上し増毛に向かうことに。厚田から雄冬岬を経由して増毛までの道程は、海岸線まで迫る山と日本海に挟まれた道が続き運転していてとても爽快だが、トンネルの数はとにかく多い。ウィキぺディアによると、1981年にトンネルが開通するまで、この地域(雄冬岬)は北海道を代表する秘境の一つで、陸の孤島と呼ばれていたそうだ。そう言えば、以前観た映画「駅 STATION」の高倉健演じる主人公 英次が故郷の雄冬に帰る時、連絡船だったと思う、確か。

増毛駅

増毛駅

朱文別は、増毛駅から約5キロほど北上した地点にある。現地に到着したのは午後6時前。この時期の日没は午後7時過ぎなので、夕焼けまでまだ一時間程度はあるはずだ。早速、小説を頼りに、その舞台となった浜を探索することにした。

運良く浜辺の家の庭先に座っているお婆さんを見つけ話を聞くことにした。お婆さんは、鰊が獲れたころのことを教えてくれた。昔に比べ、浜は波の浸食で削られ後退し、もちろん鰊番屋跡も無い。陸側の景色は様変わりしたそうだ。しかし、一方の海側を見ると、左手には箸別の岬と暑寒別岳。右手には舎熊の岬。そしてそこに沈む夕日は相変わらず美しいようだ。

お婆さんに、夕日を撮りにきたことを話すと、家の裏の浜に沈む夕日は奇麗だから見て行きなさいと招き入れてくれた。確かに、お婆さんの家の裏で観る夕焼けは格別であった。日没後数分経つと、一気に空が桃色に染まり、空と海とが燃えるようであった。打ち寄せる波の音、そして汐のかおり。暫し浜辺にしゃがみ込み、その景色を体で感じた。

増毛町朱文別の夕焼け

増毛町朱文別の夕焼け

お婆さんは更に、以前、この浜になかにし礼氏が来ていたこと、そして息子さんが東京で料理人をやっていて、なかにしさんと知り合いであることも話してくれた。石狩挽歌はね、元は増毛挽歌だったそうだよ。増毛より石狩の方が聞こえがいいしね。

なかにし礼作詞 「石狩挽歌」より引用

あれからニシンはどこへ行ったやら
オタモイ岬のニシン御殿も
今じゃさびれてオンボロロ オンボロボロロ
かわらぬものは古代文字
わたしゃ涙で娘ざかりの夢を見る

これは帰宅後調べて分ったことだが、詩の中に登場する「オタモイ」であるが「海岸」として小樽に実在するが「岬」では実在していなかった。確かに、なかにし礼氏のこの歌は、ここ朱文別の浜がモデルと考えた方が自然かもしれない。

夕焼けを撮り終え、先に家に帰られたお婆さんにお礼を言おうと家をノックしたが、すでに休まれたのか反応がなかった。なので、カードにお礼を書いてポストに入れて失礼した。三國さんのお母さん、どうも有り難うございました。

余談であるが、
映画「駅 STATION」で、英次が雄冬に帰る時、時化で増毛の街に足止めを食った。その時訪ねた赤ちょうちんで流れていたのが「舟唄」だ。この「舟唄」、作詞はご存知阿久悠、そして作曲は石狩晩夏と同じ浜圭介である。昭和を代表する二つの演歌が、増毛と繋がっているのは、とても興味深い。

【関連情報】
鰊番屋57棟――鰊漁の残像
日本の佇まい:ニシン漁家建築
Wikipedia:鰊御殿
Youtube:AKI YASHIRO – 石狩挽歌(1975)
Youtube:八代亜紀 舟歌

2010.07.23追記
小樽路地裏散歩:ニシン漁の栄華と夢

【サイト内関連情報】
panoramas:「兄弟」- 小樽市豊川町

[朱文別の浜]
場所:北海道増毛郡増毛町朱文別
撮影:2010年06月26日
機材:Canon EOS 5D + Tokina 10-17mm @14mm + Agno’s MrotatorTCP
アプリ:Lightroom, Photo Shop, PTGui Pro, Pano2VR
ピクセルサイズ:9,904pix * 4952pix(朱文別の浜)


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コメント

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  • コメント (2)

  1. ごぶさたしております。
    しばらく作られなかったのでさぞやお忙しいだろうと推測しておりました。
    新作を拝見し、やはり素晴らしい雰囲気のパノラマを撮られるので感心いたしました。
    もうひとつおまけに感心したのはTwitterのコメント。
    電柱にのぼるの行はまさに真打の粋な返信であります。

    次の新作を心待ちにしております。

    • keiji
    • 2010年 7月 18日

    谷口さま、コメント有り難うございます。
    写真家の大先輩のお言葉、励みにさせて頂きます。
    ブログいつも拝見しております。
    http://blog.t-photoworks.com/
    いやーそれにしても、
    谷口さんの技術等をどん欲に追求するそのバイタリティには感服デス。
    電子畑で育った人間としては、
    業種の壁がガラガラと音を出しているようで、
    これぞデジタル波の醍醐味とワクワクしております。
    これから、ぜひ鋭いツッコミも、
    よろしく御願いいたします m(_ _;)m

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